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預貯金を理由にした生活保護廃止処分の取り消しと遡って保護支給を勝ち取った事例紹介

2015-12-26

1.はじめに

 預貯金を理由にして生活保護が廃止されたA氏は二回不服審査請求を行い、2015年2月10日県知事裁決が出され「保護廃止処分の取り消し」が認められました。この裁決の結果、廃止された約1年分の保護費が支給されるはずでした。しかし、金沢市福祉事務所と県、国との協議が続き、10ケ月もその保護費が支給されることがありませんでした。しかし、ようやく裁決後10ヶ月が経過した2015年12月11日金沢市生活支援課より、「遡って保護費を支給する」という口頭での案内がありました。この決定については、生活支援課課長は「国と県と何度も検討して結論を出した」ものであると述べています。今回、保護廃止処分取り消し裁決、遡って保護費を支給させた意義について述べます。

2.今回の処分と審査請求で、問われたこと

 今回の事例で問われたのは、「生活保護費を削って蓄えた預貯金を理由にして保護を廃止するのは妥当かどうか」でした。本来、生活保護費は、健康で文化的な最低限度の生活費をまかなうことができるものですから、預金に回せるものではありません。ところが、A氏は、毎月の生活保護費を削り、預金をしてきました。電気はもったいないので“必要時以外は消灯”し早く床につくようにし、食事は、ご飯は1回茶碗軽めの一杯、おかずは週6日は1日300円以内、週に1度だけ1日500円にする、風呂は水道料がかかるので週1日としてきました。A氏はそうやって自分の将来に必要となる費用、(1)入院したときに必要となる費用、(2)介護が必要になった時に、介護施設の入居のための保証金などの費用、(3)現在の4階の部屋を1階に住み替える費用を確保するために、頑張ってきたのでした。我慢の上に我慢を重ねる生活は健康に良いはずがなくA氏は案の定、ひどい貧血を患っていました。

 金沢市の担当者は、本来、A氏に、「将来の不安などには心配しなくても良いこと」「現在をよりよく生きること」をアドバイスすべきでした。ところが実際に実施されたのは、わずかな企業年金が振り込まれることを契機に、通帳の提示を求め、そこで見つけた預貯金を理由にして保護辞退届けの提出を迫り保護廃止を知らせるものでした。

 生活保護法では、「当該預貯金等が既に支給された保護費のやり繰りによって生じたものと判断されるときは、当該預貯金等の使用目的を聴取しその使用目的が生活保護の趣旨目的に反しないと認められる場合については、活用すべき資産には当たらないものとして、保有を容認して差しつかえない」と解釈されて運用されています。この施行規則は「有名な秋田の加藤訴訟の一審判決」(1993年4月23日秋田地裁)の結果、生活保護手帳に盛り込まれたものです。

3.今回の生保取り消し・遡って保護費の支給を勝ち取ったことの意義

 知事裁決そのものは、手続き的な瑕疵で「保護廃止処分の取り消し」裁決を出したのですが、実際にはA氏の預貯金の性格、生活保護法の趣旨に沿った預貯金の目的を認めた結果の裁決であることは間違いありません。今回の保護廃止処分の取り得消し裁決と遡っての保護費の支給を勝ち取ったことの意義は、県知事裁決で明らかになったように、「預貯金について、原資が生活保護費等認定された収入であった場合、生活保護の趣旨目的に反しない限り保有を認めるという判例や実施要領を再確認した」という意義があります。資産調査とそれによる保護の廃止などの動きが強まっている中での今回の決定は、当事者の皆さん方へのエールにはなるのではないでしょうか。

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